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今年度で2回目となる「平成19年度 美術館を活用した鑑賞教育の充実のための指導者研修」(以下、研修)は、国立美術館が主催、文部科学省・文化庁共催による全国規模の鑑賞教育研修プログラムである。東京国立近代美術館と、今年1月にオープンしたばかりの国立新美術館が会場となり、8月6日から8日まで、3日間かけて行われた。
全都道府県、政令都市から選出された総勢139名(小学校教諭38名、中学校教諭48名、美術館学芸員33名、指導主事20名)が受講した。研修内容は、課題である美術館利用の鑑賞プログラムづくり(グループワーク)を中心に、講演や事例紹介、ギャラリートーク等を盛り込んだもの。

1日目             8月6日(月)東京国立近代美術館
詳しくは20頁~参照○ 講演1
開講の辞に続き、奥村高明氏(文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官)による講演が行われた。テーマは「創造的な行為としての鑑賞」。先入観に惑わされず子どものようにみることの難しさを事例を挙げて示し、「子ども」の視点から鑑賞教育を始める重要性について語った。
知識は材料のひとつといった具体的な示唆や、「みること」のかけがえのなさに言及した内容は、受講者に大きな励みを与え、課題取り組みへの動機づけとなった。

詳しくは34頁~参照○ ギャラリートーク
次に、所蔵作品のコーナーにて、研修側スタッフがギャラリートークを行った。近郊の小・中学生を招き、作品を前に絵を描いたり、五行詩を創作したり、作品の隠れたストーリーを創作したりするなど、5つの異なる鑑賞プログラムが繰り広げられた。
子どもたちの生き生きと発言する姿は印象的。床に座ったり、身体を動かして鑑賞するなどリラックスムードが漂った。
詳しくは39頁~参照○ グループワーク
講演、ギャラリートークに続き、本研修のメインであるグループワークの活動へ。15~16名ずつ、A~Iの9つのグループに分かれ、ワークショップ形式で鑑賞プログラムづくりを行った。展示空間での研修は初日のみということもあり、課題作品をじっくり見ることと、グループ内のコミュニケーションを活発にする雰囲気づくりが各グループの進行役であるファシリテーターに課せられた。「心のネクタイをゆるめて」とリラックスを促したり、「子どもだったらどう見るか」と投げかけたり。受講者は肩書きや立場を一端脇へ置いて、子どもの目線で自身の鑑賞に臨んだ。その後の討議はグループによってさまざま。小グループに分かれたところ、全員で意見交換を続けたところ、話し合うだけでなく身体を使って作品を表現したグループもあった。課題作品も様々で、誰もが知っている名画もあれば、あまり知られていないもの、中には第一印象で多くの受講者が違和感や苦手意識 を抱く作品もあった。しかし、その後「違和感」を糸口にして熱い討議が繰り広げられる。

2日目             8月7日(火)国立新美術館
詳しくは96頁~参照 ○ 事例紹介
昨年と同じく3つの事例が紹介された。最初に、東京の府中市美術館の取り組みを学芸員の武居利史さんと成相肇さんが発表。2000年の開館当初から期待されていた地元府中市の子どもたちへの働きかけについて、学校との連携の実際や、子どもの視点で展示を工夫した現代美術の展覧会などを紹介した。次に、宮崎大学教育文化学部附属小学校の日高和広さんが、宮崎県立美術館との連携を中心に、アートカードの活用など鑑賞の楽しさを伝えるアイデアに溢れた授業例を紹介。美術館訪問前の事前授業で作品づくりをするなど、鑑賞活動と表現の密接な結びつきについて言及した。最後に、長野県の干曲市立戸倉上山田中学校の「中学校を美術館にしよう」という“とがびアートプロジェクト”の3年間の歩みを、中平千尋さん(現・長野市立櫻ケ岡中学校)が発表した。出品作家を探すところから展覧会の全工程をキッズ学芸員達が行う生徒主導のプロジェクト。生き生きした中学生の様子と、回を重ねるにつれて深まる地元との関係など、工ピソードを交えながら楽しく語った。
詳しくは39頁~参照○ グループワーク(2日目)
午後は、昨日と同じA~Iの9つのグループで課題作品の鑑賞プログラムづくりを行った。それぞれグループ独自の活動だったが、4~7人の小グループに分かれたところがほとんどで、リラックスムードの中、活発に意見が交換された。付箋を使ってブレーンストーミングをしたり、小グループごとのプレゼンテーションを行ったり、もう一度全員での討議に戻して気づきを共有したり、さまざまな活動が繰り広げられた。

3日日             8月8日(水)国立新美術館
詳しくは102頁~参照○ 講演2
研修の最終日は、長田謙一氏(首都大学東京教授)の講演で幕を開けた。この研修のテーマともなっている「美術館を活用した鑑賞教育」には、そもそも無数の問い(美術とは?美術館とは?学校とは?鑑賞教育とは?)が内在していると指摘し、もう一度一つひとつの前提に立ち戻りながら考え、新たな答えを与えていくことが、創造的な鑑賞教育をつくり出そうとする者の姿勢として求められると説いた。この3日間を通して、新たなエネルギーと新たな問題意識をもったたくさんの人々が生まれ、新たな創意に満ちたプログラムが全国からつくり出されること、またそのネットワークをつくることが実現すれば、日本の美術教育、美術館教育、学校教育、そして社会の在り方さえも変えていくことにつながるのではないかと締めくくった。
詳しくは39頁~参照○ グループワーク(3日目)
研修最後のプログラムとして、グループワークでの討議の成果が発表された。各グループにプレゼンテーションの努力が見られ、思いがけない表現の数々に会場が沸いた。そして、指導者自身の深い鑑賞体験(みること)と、人とのつながりが、鑑賞プログラムづくりでは不可欠だという点が多くのグループで語られた。

A グループ : 課題作品 清水登之 『街の掃除夫』 1925
登場人物の台詞を考え、ストーリー化することで人物の心情に迫るプログラム。
B グループ : 課題作品 元永定正 『作品66-1』 1966
小学校5年生を対象にした、表現を取り入れたプログラムを発表。色や形を生き物ととらえ、似合いのはきものを選ぶという、子どもの視点に立ったアイデアを披露した。
C グループ : 課題作品 土谷武 『開放Ⅰ』 1997
グループワークの流れを交え、プログラムを提案。抽象的な立体作品を、小学校教員、学芸員、指導主事など立場の異なる三者が力を合わせて表現した。
D グループ : 課題作品 アントニー・ゴームリー 『反映/思索』 2000
課題作品から、小学校の低・中・高学年それぞれのプログラムを提案。落ち着いた雰囲気の中、同一作品でもアプローチやねらいを変えることで、発達段階に考慮した実践が可能であることを示した。
E グループ : 課題作品 萬鉄五郎 『裸体美人』 1912 重要文化財
学校と美術館、双方で行う2つの授業形態を提案。三つ折のワークシートといった具体的な提案と、発表者の「直球勝負」という言葉に会場が沸いた。
F グループ : 課題作品 原田直次郎 『騎龍観音』 1890 重要文化財 護国寺蔵 (寄託作品)
「チーン」会場が静まり返る中、小さな鐘が鳴らされ、作品の独特の雰囲気を醸し出しながら、3つのグループが中学生対象のプログラムを発表した。第一印象では多くの受講者が違和感を感じた作品だが、じっくり時間をかけて向き合ったことで、自分なりの感じ方、見方が育まれた喜びが語られた。
G グループ : 課題作品 伊東深水 『露』 1931
2つのグループが中学生を対象にしたプログラムを発表。「色」を切り口にしたものと、「季節感」をキーワードに描かれた植物に着目し、調べ学習を取り入れたもの。講評では、切り口が非常に面白いという感想が述べられた後、「色」に関して、日常生活の中で持続させるフォローのプログラムも重要、とのエールが贈られた。
H グループ : 課題作品 岸田劉生 『道路と土手と塀(切通之写生)』 1915 重要文化財
中学生対象の「言葉にする」プログラムを提案。グループワークでは、じっくり作品と向き合い、ひたすら話し合ったというプロセスも含め発表された。
I グループ : 課題作品 石井茂雄 『戒厳状態』 1957
中学生の内面に配慮した作品の見せ方、中学生の目線に立ったプログラムが、3つのグループから提案された。
※F以外は、東京国立近代美術館蔵
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